SUZUKI パレット
[外観デザイン 外装パーツ インパネ周り シート周り 収納 荷室&試乗レポ]
荷室は、居住空間を優先させているために「ワゴンR」などと比べると狭いですが、それでも必要十分な容量は確保されていて、日常の買い物などに利用するにはちょうどよいバランスではないでしょうか。 「タント」よりもタイヤハウスの張り出しが少ないため、幅も広く、使い勝手は良さそうです。 ここでは、ホイールベースが長すぎないことが好影響となっているようですね。
リヤシートをスライドさせるとこのように荷室を拡大できますが、スライド量が少ないので、あまり大きく変化しません。 「タント」と比べると奥行きがあまりとれないのが残念ですが、幅は広めですし、仕切り板をうまく使ってシートレールが隠れるようになっているところなどは、よく考えられていると思います。 荷室の使い勝手では両車互角といったところでしょうか。
リヤシートは、「タント」と同様に座面を床に落とし込むことができるので、このように広大な荷室スペースを作ることも可能です。 段差は2cm弱くらいで、実用上問題ないレベルだと思いますし、仕切り板が隙間を埋めてくれるところも親切です。 この状態ではシートレールもなくなるので、大きな荷物も安心して積めます。 このときの荷室長はカタログ等に明記されていないので、「タント」と比較することができないのですが、ほぼ同レベルと考えていいと思います。 ただ、この状態だとフロントシートを少し前にスライドさせているので、前席はやや窮屈に感じました。
「タント」と同様に、この車も助手席を前倒しすることで、室内をいっぱいに使ったさらに広大な荷室を作れます。 助手席は座面を跳ね上げてからシートバックを前倒しするため、手間はかかりますが、そのぶん荷室との段差が少なく、ほぼフラットな状態になるため、使い勝手は良さそうです。 このタイプの車はだいたいそうなんですが、リヤシートの座面を落とし込んだり戻したりするのが、最初はなかなかうまくいきません。 力を入れる方向を理解しないと、なかなか思うように動いてくれないのです。 取っ手の位置なども影響すると思いますが、「タント」のほうが操作はやりやすい感じがします。 慣れの問題もありますので、人によってどちらが操作しやすいかはまちまちかもしれませんが、気になる人は展示車で実際に操作して両車を比べてみてください。
この車は荷物の容量だけでなく、積み下ろしのしやすさについても配慮されていて、荷室の開口高が1100mmもあります。 これは、「タント」よりも60mmも高い開口ということになり、背の高いものもラクラク積み込めます。 また、荷室開口地上高も、「タント」より60mm低い535mmとなっているので、重いものの積み下ろしもラクになっています。 荷室の開口については、ホンダの「ゼスト」がそれを売りにしていて、この「パレット」は、開口地上高の低さではそれにわずかに及ばないものの、開口高では大幅に上回っていて、「タント」だけでなく「ゼスト」をもライバルとしている車ということになり、他メーカーの販売にも多大な影響を与える車ということになりそうです。
この車は、単に荷室や開口を広くするだけでなく、実際の使い勝手もちゃんと研究されています。 その成果が表れているのが、この前進したバックドアのヒンジです。 通常のものよりも支点が前にあるため、開閉時にドアがあまり飛び出ません。 つまり、後ろのスペースが少し狭くてもバックドアの開閉が可能ということなのです。 通常はドアの開口高を広げれば、それだけバックドアが大きくなるので、開閉時の後ろのスペースもたくさん必要になります。 しかし、この車は、開けたときにバックドアがルーフに少しかぶさるようになるので、そのぶん後ろへの飛び出しが少なくなり、通常よりも狭いスペースでも開閉が可能となっているわけです。 なかなかのアイデアですね。
軽トップクラスの低い荷室床を実現しているのに、さらにその下にラゲッジアンダーボックスも装備しています。 あらかじめ工具類などが収納されているため、実際にはほとんど何も積めませんが、軍手やタオルなどのちょっとしたメンテナンス用具くらいならここに収納できますね。 スペアタイヤの装備はなく、アンダーボックスにパンク修理キットが収納されていますので、万一パンクしたときには、パンク修理キットで応急処置を行うことになります。
床の低さは、荷室だけでなく、居住空間も同じです。 340mmというステップ地上高は、「タント」より30mm低く、「ゼスト」と同じで、軽トップクラスの乗降性を実現しています。 ただし、リヤドアの開口幅は580mmで、「eKワゴン」よりは50mm広いものの、やはり1BOXのようなスムーズな乗り降りは難しく、ここがフロントエンジンの軽でスライドドアを採用する場合の一番の難点になります。 「タント」も同じ開口幅ですが、センターピラーレスによってその問題を解消しており、ステップの低さでは「パレット」が有利で、開口幅では「タント」が有利ということになっています。
エンジンは、3気筒DOHCと3気筒インタークーラーターボの2種類。 メカニズム面ではリヤサスペンションが新開発された以外にあまりニュースはなく、60馬力のMターボと54馬力のVVTエンジンのK6Aエンジン2種類のみとなります。 ダイハツは、新型エンジンや新型CVTなどで静粛性や経済性の向上に積極的に取り組んでいますが、スズキは基本的に従来のメカニズムを踏襲しています。 これが、割安な価格設定を実現できる秘訣でもありますが、そろそろ新しいニュースも聞きたいところです。 ミッションはすべて4ATで、「XS」以外には4WDも設定されています。 最近は、燃費やスムーズな走行に有利なCVTの採用が増えていますが、この車にはCVTは設定されませんでした。 それでも、カタログ燃費は、NA車が20.0km/L、ターボ車が18.6km/L(いずれも2WD車)と、「タント」とほとんど同レベルの数値を実現しているため、あえてCVTを設定する必要はなかったということでしょう。 メカニズム面で無理をしていないおかげで、価格は110万円台から150万円台(いずれも2WD車)と、豪華装備の割にはあまり高くない価格設定です。 最廉価グレードでは「タント」の方が安いですが、147万円からターボ車が買えるなど、買いやすいと思えるラインナップになっているところがなかなか商売上手です。 インテリアの質感や装備などは格段に進化していますが、走りがそれに追いついているかどうかが一つ気になるところで、そこはぜひ試乗で確かめてみたいと思います。
<ここから試乗レポート>
なかなか時間がとれずすっかり遅くなりましたが、やっと試乗することができましたので、試乗レポートを追加します。 今回試乗したのは、Mターボエンジンを搭載する最上級グレード「TS」です。 まず、ブレーキを踏みながら、インパネのボタンを押してエンジンをかけます。 まだ軽でプッシュボタンスタートを装備している車は少ないので、新鮮な感じです。 エンジンが冷えていたため、スタート直後はエンジン音と振動がやや気なりましたが、少し経って回転が落ち着くとそれもあまり気にならなくなり、シフトをDレンジに入れてもブレーキペダルに伝わる振動はそれほど大きくありません。 ただ、シフトレバーの位置がやや低く、エアコンなどのスイッチも低い位置に密集している感じなので、思ったよりも操作性が悪く思え、ここはインパネがデザイン優先であることのしわ寄せになっているように感じました。 歩道から下りると、重さを感じないマイルドな足回りがゆったりと段差のショックを吸収してくれます。 まずは、大きさのわりには揺れの少ない乗り心地が好印象です。 幹線道路で加速を始めると、グオーンという音とともに緩やかにスピードが上がっていきます。 しかし、同乗者がいたせいもありますが、やはりこのボディにMターボではやや非力な感じがあり、一定速度に達するまではかなりアクセルを踏み込んだままにしておかねばならず、グイグイ引っ張ってくれるような加速感はありません。 良くも悪くも、ターボらしさはあまり感じられず、マッタリ走るにはとてもよい感じですが、ターボ車らしい加速感を期待していると少々ストレスが溜まるかもしれません。 ミッションも4ATであるため、ダイレクト感があまりなく、加速性能では64馬力ターボ+CVTの「タント」のほうがパワフルに感じました。 加速時の変速ショックもやや気になった点で、やはり「パレット」にも64馬力ターボ+CVTの仕様が欲しいなという気がしました。 「ラパン」のMターボエンジン車に乗ったときは非常にスムーズに感じたのですが、やはりこのエンジンで対応できるのはセダンタイプまでで、トールワゴンタイプでは少し無理がある感じがします。 走りにこだわる人は、後でスポーツモデルが出るかもしれないということを考えた上で購入を検討したほうが良さそうです。 しかし、スピードがある程度出てしまえば、そこからはスムーズに気持ちよい加速ができますし、街中で普通に乗るには十分な性能ですので、街中メインで乗るなら「TS」でも満足できるかもしれません。 静粛性についてはなかなかのレベルです。 エンジンの音はそれなりに室内に侵入しますが、特に目立った周波数の騒音というものがないので、全体的に静かに感じるのです。 最近の軽は、全体的に静粛性がかなり高くなっているのですが、その代償として、CVTの高周波数の騒音や低周波数のロードノイズなどが逆に目立ってしまい、人によってはそれが不快と感じることもあります。 しかし、この車の場合は、そういった目立った騒音というものがないので、実際の音量はまずまずのレベルでも、印象としては非常に静かな車という感じがするのです。 また、広い室内に音がこもって共鳴するような感覚もなく、どのスピードで走っていても非常に落ち着いた感じがするのがこの車の特徴です。 新開発されたリヤサスペンションが効果を発揮しているのか、軽で一番気になる後輪からのロードノイズもあまり気になりませんでしたし、風切り音などの外から侵入してくる騒音もうまくカットされていました。 おそらく、前後ドアの間に設けられたゴムシールなども効いているのでしょう。 安定性については、大きなボディのわりには上半分が左右に振られるような感覚はあまりなく、カーブでも意外にスムーズに曲がってくれます。 「タント」と違い左右対称のボディであることも影響しているのか、カーブの連続でも素直なハンドリングです。 一般的なスピードで走っている限りは、背の高い車であることをあまり意識しなくても良さそうです。 乗り心地は全体的にマイルドなのですが、細かい凹凸が続くときはしっかりと地面を踏みしめる感じのガッシリした乗り心地になります。 ただ、ドア開口を大きくとっているせいか、時々ボディがサスペンションに負けてブルンブルンと揺れるときがあり、ここはこのタイプの車の弱点であるように感じました。 両側電動スライドドアはとても便利で魅力的ですが、可動部分が多くなるため、ボディ剛性の面では不利なのかもしれません。 全体的な印象としては、「ワゴンR」に近く、突出した点はあまりありません。 「タント」のように持て余すほど大きな車に乗っているという感覚もありませんので、どの車から乗り換えても自然に運転できます。 その自然な感じこそが、この車の最大の特徴であるように感じました。 車両感覚もつかみやすいですし、どんな場面でもバランスのとれた車という点で、やはり「パレット」は「ワゴンR」の延長上にある車だと感じました。
いかがでしたか。 この車が持つ独特の高級感や「タント」との方向性の違いはだいたい理解していただけたのではないでしょうか。 2008年は、多くのフルモデルチェンジが予想されていますが、この車のクオリティの高さを見ると、今後登場する軽自動車はさらに高級になり、インテリアの質感や快適装備などでは普通車との差がほとんどなくなるのではないかと予想されます。 広さも快適さもスタイルも、すべてが高次元の「パレット」は、性能や数値面では図抜けた印象がなくても、それが逆に誰にとっても魅力的な車ということになり、「ワゴンR」に続く軽のスタンダードになる可能性を秘めた車です。 「タント」と迷う人も多いと思いますが、数値だけで比較するのではなく、実際に見て触って乗って、両車を徹底比較してみるとおもしろいと思いますよ。
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