SUZUKI ワゴンRスティングレー
[外観デザイン 外装パーツ インパネ周り シート周り 荷室&試乗レポ]
居住空間を大幅に拡大したため、荷室スペースは旧型よりも狭くなっています。 狭いといっても、日常の買い物に困るほどではないですし、この写真はリヤシートを一番後ろに下げた状態です。 つまり、これが荷室を一番狭くして居住空間を最大にした状態ですから、これで足りなければ、荷物の量に応じてリヤシートをスライドさせて荷室の広さを調整すればいいのです。 リヤシートは左右独立でスライドが可能ですから、荷物の量や形に応じてフレキシブルに対応できます。
リヤシートを一番前にスライドさせて、荷室を最大にするとこうなります。 スライド量が160mmなので、「ムーヴ」ほど広くはなりませんが、これでも十分な広さがあります。 新型では、リヤシートのスライド量だけでなく、荷室の使い勝手に関してもしっかり改良されています。 旧型では、リヤシートを前にスライドさせても、仕切り板の角度が変わるだけで、床面積が変化せず、この点で「ムーヴ」より使い勝手が悪かったのですが、新型では、新たにスライド板を設けることで、ちゃんと床面積が変化するように改良されました。 この新型「スティングレー」は、かなり「ムーヴカスタム」を意識していて、それを十分に研究して開発されたということがいろんなところから読み取れます。 この荷室の構造もそうですし、価格にしても装備内容にしても、「ムーヴカスタム」を基準にしている部分が多いように思えます。 どの世界でも、ライバルの存在がお互いを高め合うといいますが、「ムーヴ」という強力なライバルがいるからこそ、新型「スティングレー」はここまで完成度を高めることができたのでしょう。
2名乗車時なら、リヤシートのワンタッチダブルフォールディング機構を使って、このように荷室をさらに広げることができます。 操作は、シートバックのリクライニングレバーを引きながら前に倒すだけで、力も要らず簡単です。 荷室のスライド板はしっかりしていて、段差もほとんどなく、奥行きもしっかり確保できていますので、大きな荷物でも安心して載せられそうです。 もちろん、左右独立で操作できるので、3名乗車時に片方だけ荷室を拡大するということも可能です。
助手席の前倒し機構も使えば、このようにフロントからリヤまですべてを荷室にしてしまうこともできます。 写真のように、左側のリヤシートをだけを折りたたんで助手席を前倒しすれば、長い荷物を載せて前後2名乗車という使い方もできます。 このような多彩なシートアレンジにより、あらゆる状況で使いやすさを実感できるというのが「ワゴンR」の最大の武器であり、それに高級感をプラスしたのが「スティングレー」なのです。
荷室の下にはアンダーボックスがありますが、あらかじめパンク修理キットや工具などがセットされているため、収納としてはあまり使えません。 新型には、スペアタイヤは装備されておらず、万一パンクした際にはパンク修理キットで応急処置をすることになるので、使い方は一度確認しておきましょう。 荷室の両脇には、フック(写真左上)も装備されています。 この車は、インパネ、助手席シートバック、荷室脇両側と、合計4箇所にフックがあり、様々な使い方に対応できるように配慮されています。 デザインにこだわりながらも、こういった利便性がしっかり確保されているところも、「スティングレー」の特徴です。
「ムーヴ」と比べてコストカットしている部分が、夜間照明類です。 夜間照明としては、フロントにルームランプが1つと、リヤにラゲッジルームランプを兼ねたルームランプが1つ、そして両席バニティミラー照明の合計4つしかありません。 「ムーヴ」の場合は、さらに左右マップランプと左右リヤパーソナルランプも装備されていますので、それと比べるとこの車は必要最低限の照明しかありません。 せめてマップランプくらいは装備していてもよかったのではないかという気はしますね。 もっとも、こういった部分で地道にコストカットをしているから、「ムーヴ」と同じ価格で他の様々な装備を標準化できるわけですけどね。 ルームランプの前にはオーバーヘッドコンソールが装備されています。
新型は、リヤクォーターウインドウを廃止して、リヤドアのガラスを後ろまで延ばすことで、斜め後方の視界を向上させています。 確かに、リヤピラーも極端に太くはないので、後方視界は悪くありませんが、後ろ上がりのウエストラインによって、後方の安全確認に若干の不安は感じます。 新型「ライフ」はバックカメラが標準装備されるという話なので、この車にもぜひバックカメラの標準装備化を期待したいですね。 ちなみに、ディーラーオプションでバックカメラも用意されていますが、約3万5千円からと価格がやや高めです。 その代わりに、スズキのエンブレムがついた専用カバーによってカメラが目立ちにくいように配慮されていますし、真上から見たイメージの画像を映し出せるセレクトビューバックアイカメラというものも用意されているので、ボディとの一体感や機能性を重視したい人は、一度オプションカタログも見てみるといいですよ。
エンジンは、3気筒DOHCと3気筒インタークーラーターボの2種類で、普通の「ワゴンR」と同じエンジンラインナップとなっています。 K6A型という従来のエンジンを使っていますが、吸気系のチューニングやターボチャージャーの新開発などによって、まるで新型エンジンであるかのように、まったく違う印象の走りになっています。 NAエンジンのほうは、54馬力/6.4kg・mとスペックに変化はありませんが、ターボエンジンのほうは、64馬力/9.7kg・mとスペックが新しくなっています。 スズキには、60馬力のマイルドターボと、64馬力の通称ドッカンターボと、同じく64馬力の直噴ターボという3種類のターボがありましたが、今回はターボチャージャーを新開発し、新たなターボエンジンに一本化しています。 この新ターボエンジンは、Mターボエンジンと同じ3000回転という低い回転域で9.7kg・mという高トルクを発生しながら、6000回転で自主規制いっぱいの64馬力を発生するという、扱いやすさとパワフルさを両立したエンジンで、今後のスズキ車はこのエンジンを主力に展開していくものと思われます。 新型ではCVTがメインとなったこともあり、燃費も大幅に向上しています。 NA車で23.0km/L、ターボ車で21.5km/Lという数値は、「ムーヴ」のCVT車とまったく同じで、ここでもやはり「ムーヴ」を意識して開発されたことがよくわかります。 なお、普通の「ワゴンR」はボンネットの裏に吸音材がありませんが、「スティングレー」には吸音材が装備されていて、静粛性の面でも差別化されています。 気になる走りについては、このあとの試乗レポートでお伝えします。
<ここから試乗レポート>
試乗したのは、最上級グレードの「TS」で、メカニズムは、注目の新開発ターボ+7速マニュアルモード付CVTです。 早速、ブレーキを踏んでエンジンスタートボタンを押します。 赤い指針が一度振り切れて、メーターが時間差で発光する様子を見ているだけで、「高級車だな」という気分になります。 早速シフトを「D」に入れて、まずは加速です。 NAエンジン+4ATの試乗では発進時のもたつきが気になりましたが、さすがにこちらは非常にスムーズです。 CVTの採用は大正解で、気持ちいいくらいに走りが滑らかです。 新開発ターボは、従来のMターボを全体的にパワフルにした感じで、どの回転域でも余裕があり、落ち着いた印象のエンジンです。 ターボエンジンであることを意識させない自然な加速感が特徴で、従来のMターボが800ccくらいのNAエンジンのようだったとすれば、新開発ターボは1000ccくらいのNAエンジンのような、そんな雰囲気の扱いやすい特性です。 扱いやすいといってもパワーが不足しているわけではなく、低回転からトルクフルであることと、CVTと組み合わせたことによって、発進はとても力強くなっています。 セダンタイプのような軽やかさはさすがに期待できないですが、信号発進のたびにストレスを感じるようなことは一切ありません。 また、加速時の音が非常に静かなのにも驚きました。 CVTによって回転が低く抑えられているというのも大きなポイントですが、回転を上げても音量が極端に変わることがなく、どんな状況でもうるさいと感じることはありません。 信号停車時のエンジン音や振動も非常に低いレベルに抑えられています。 ダイハツ車のように「ヒューン」という高周波の騒音が気になることもなく、常に落ち着いた環境なのが印象的です。 もちろん、騒音がまったくないわけではありませんが、何か特定の音が気になるということはなく、「シュー」とか「シャー」といった感じの音がかすかに聞こえている感じです。 これが風切音なのかメカニカルノイズなのかはよくわかりませんが、静かな中に高周波の騒音が目立つ「ムーヴ」に対して、全体的に落ち着いた騒音で、耳に付く音がないというのが「スティングレー」の特徴です。 エンジン単体の音に注目すると、加速時に若干低音がしますが、巡航になると非常に静かになり、回転を上げても音量があまり変わらず「グォーン」という心地よい音質になります。 高回転での伸びや音質の心地よさでは、ダイハツのKFエンジンより優れているように感じますが、日常域でのエンジンの音量という点で比較すると、ダイハツ車のほうが静かなように感じます。 全体的には、軽トップレベルの静粛性であることは間違いないですが、メカニカルノイズを抑えたことで結果的にロードノイズが目立つようになってしまったのはダイハツ車と同じで、今後はロードノイズの低減が課題となるでしょう。 さて、ある程度走ったところで、楽しみにしていたパドルシフトを操作してみました。 今までにも、7速マニュアルモード付CVTの車には何台か乗ってきましたが、「スティングレー」のパドルシフトは最高です。 パドルシフトの最大の利点は、ハンドルから手を離すことなく瞬時にシフトチェンジができるということですが、その利点を最大限生かせるように、「スティングレー」のパドルシフトはシフトが「D」のままでも操作できるようになっています。 そのため、「今」というその瞬間にすぐシフトダウンができ、ストレスがまったくないのです。 他車のマニュアルモードは、シフトレバーをマニュアルに入れてからさらにレバーを倒すという操作が必要で、ほんの一瞬ですが反応が遅れてしまいます。 また、その間、ハンドルを片手で操作しなければいけなくなるので、カーブなどでは不安定になります。 ところが、「スティングレー」の場合は、シフトレバーに一切触れることなく、ハンドルを両手で握ったままレバーをちょんと引くだけでシフトチェンジが可能なのです。 シフトが「D」の位置にあっても、パドルシフトを操作すると自動的にマニュアルモードに切り替わるので、いちいちシフトレバーに手を伸ばす必要がないのです。 そして、しばらくシフトチェンジせずに走っていると勝手にオートマチックモードの「D」に戻ってくれるので、気付かずにマニュアルモードのままで走ってしまうという心配もありません。 また、シフトチェンジの反応速度も非常に早く、レバー操作に即座に反応してくれます。 ダイハツのCVTと比べると、エンジンブレーキもかなり強力で、本当にマニュアル車を運転しているかのようなスポーティでダイレクト感のある走りが楽しめるのです。 トールワゴンにこれだけ完璧な走りをされたら、他の車は要らなくなってしまいますよ、本当に。 サイズアップされた15インチタイヤや新開発のサスペンションなどによる乗り心地も非常に心地よく、路面の段差をしなやかに吸収してくれますし、不愉快な揺れがまったくありません。 インテリアの圧倒的な高級感と、このしなやかな乗り心地によって、本当に軽自動車に乗っているということを忘れさせてくれる車です。 一定以上の衝撃はそれなりにボディに伝わりますが、一般的な路面状態ではきわめて滑らかでフラットな乗り心地です。 カーブでも、よほどの速度にならない限りロールしませんし、パドルシフトで細かくスピード調節ができるので、常に安定したコーナリングを楽しむことができます。 全高が高く、アップライトなドライビングポジションなので、オーバースピードになると上体が外側に引っ張られるような感覚になり、そこはセダンタイプにはかないませんが、通常走行では路面に吸い付くような安定した走りで、一般道ではトールワゴンであることを意識させないしっかりした走りを提供してくれるのが印象的でした。 新型「スティングレー」は、デザインや装備だけでなく、走りもその高級感にふさわしいレベルになったといっていいでしょう。
いかがでしたか。 メーカーが「挑戦するNo.1」と宣伝しているとおりに、今回の「ワゴンR」は本当に力の入った車となっています。 特に、新たにイメージリーダーとなったこの「スティングレー」は、スズキの底力を感じる車で、装備も質感も走りも、軽自動車と普通車の差は完全になくなったといっていいほどの完璧な仕上がりです。 この「スティングレー」が、普通車から軽自動車へのシフトをさらに加速させるきっかけになることは間違いないでしょう。
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