DAIHATSU タント
ラゲッジスペースの使い勝手は満点に近いです。 リアシートを一番後ろにスライドさせた状態でもこれだけの広さがあります。 日常の買い物や小旅行にはまったく問題ないでしょう。 ここが、室内スペースを優先させたために荷室が狭くなってしまった「ムーヴ」との大きな違いです。 また、前にスライドさせれば写真右上のようにさらに大きなスペースを作ることができます。 このときにはスライドレールが少々邪魔になり、完全なフラット状態にはなりませんが、実用上はほとんど問題ないでしょう。 そして何より、左右独立スライドですから、乗車人数と荷物の量によって最適な調整が可能なのです。 また、床面の強度もしっかりしていますので、安心して荷物を積めます。
ダブルフォールディング機構を利用した荷室最大モードがこの状態です。 これはもう、満点と言って良いでしょう。 フロントシート直後までいっぱいに、まったくフラットなスペースを作ることができます。 このときにはスライドレールも床下に隠れてしまうので、邪魔な物は一切ありません。 床面も低いため、奥行き1370mm、幅970mm、高さ1030mmという広大な荷室を実現しています。 操作も簡単で、ヘッドレストを外す必要もなく、シート横のレバーを操作してシートバックを倒し、座面を床下に落とし込むという2段階の操作だけです。 そして、これだけのスペースを確保しながら、フロントシートは通常の位置でOKなので、狭くて運転しにくいということもないのです。 これはもう、FF車としては完璧なアレンジと言えるのではないでしょうか。
ラゲッジスペースの下にも収納スペースがあります。 容量は大きくありませんが、工具やタイヤパンク応急修理セットなどが収納されており、その他にも少しだけ収納が可能です。 本当にスペースをムダにしない車です。 お気づきの方もいらっしゃるかと思いますが、この車にはスペアタイヤが装備されておらず、その代わりにタイヤパンク応急修理セットが標準装備されています。 応急修理セットは、使い勝手はあまり良いとは言えないもののようですが、最近はロードサービスも充実し、路面状態も良くなっていますから、実際にスペアタイヤを使う機会はかなり減ってきているように思います。 おかげでフラットで低い荷室などが実現できているわけですから、これも一つの選択として良いのではないでしょうか。 なお、スペアタイヤがないと心配という人のために、オプションでスペアタイヤが用意されていますが、その場合は荷室に段差ができてしまうので注意が必要です。
さて、長々と使い勝手などに触れてきましたが、肝心の走りはどうなのかが気になりますよね。 早速試乗してきました。 今回試乗したのは、ターボエンジン搭載の「R」です。 「タント」は、全車3気筒エンジンで、64馬力を発生するターボエンジンと、58馬力を発生するDOHCエンジンの2種類が用意されています。
エンジンをかけてまず最初に感じたのは、「意外に静かだな」ということです。 実は、フロントエンジンでありながら短いボンネットを採用したタントは、エンジンルームがかなり室内に侵入していることになるため、エンジンの騒音が大きいだろうと先入観を持っていたのです。 ところが、予想に反してなかなか静かで、遮音材などをうまく配置しているのだろうと感心しました。 そして、つぎに感じたのは「意外に取り回しが良いな」ということ。 試乗車を展示場から出すとき一度バックして切り返す必要があったのですが、小回りが効いて後方の見切りも良いため、初めて乗る車であるにもかかわらず、楽に運転できたのです。 ハンドルも軽すぎず、しっかりとした手応えがあるので、それも運転のしやすさにつながっているのかもしれません。 また、1BOXと違い、ハンドルを切るタイミングが一般のセダンタイプなどと変わらないので、初めてでも違和感なく運転できるのもうれしいですね。 グラスエリアが広いのも一役かっていて、開放感が味わえるだけでなく、外の情報を見やすいことにより運転のストレスが軽減されるというメリットもあるわけですね。 最小回転半径4.5mという数値は、軽の中では決して良い数字とは言えないのですが、体感的には非常に小回りの効く車だという印象を受けました。
一般道に出て加速していくと、徐々に軽くガサついた音が耳についてきますが、全体的な音量は控えめで、「ミラ」の試乗時に気になった加速時のドーッという音は抑えられているように感じました。 ロードノイズも抑えられていて、試乗車にはドアバイザーが装着されていたにもかかわらず風切り音もあまりしないため、室内はなかなか静かでした。 しかし、それだけにいかにも軽らしいエンジンの軽い音質が気になったのも事実です。 停車時の振動は、3気筒エンジンとしては良くできたレベルですが、最近の車の中では標準というところ。 加速性能に関しては、900kg近い車重からくる発進時のもたつきは心配したほどではなく、意外にスムーズ。 また、ターボの効きも比較的マイルドで、高回転まで回せばそれなりに音が大きくなるものの、トルクはフラットで、加速性能にはまったく不満はありませんでした。
途中、急なカーブの続く上り坂を走りましたが、背の高さから想像するよりも意外に安定して走れました。 全体的に柔らかいサスペンションですが、「ムーヴ」よりも腰の強いフラットな乗り心地でロールもそれほど大きくなく、「重心が高くて不安定なのではないか」という心配は要らないと思います。 確かに天井は高いですが、運転感覚は他のトールワゴンと変わらない感じです。 ただ、FF車特有の急カーブ加速時のアンダーステアははっきりと感じましたので、速度には注意が必要だと思います。 大きな段差ではボンという突き上げがありますが、シートが柔らかいため、体に不快な振動が伝わることはありませんでした。 ブレーキは良く効きますし、何と言っても視界が広いので安心感のあるドライブが楽しめました。 大型のフロントクォーターウィンドウの採用により斜め方向の視界が確保されていることも、安心感の向上に大きく貢献しています。 ただ、ボンネットは身を乗り出してもまったく見えませんので、不安な場合はコーナーポールやコーナーセンサーなどを付けたほうが良いかもしれません。
今回、「タント」に実際に乗ってみて感じたのは、とにかく明るくて楽しい車だということです。 この車は非常にコンセプトがはっきりしていて、「大人2人+子供2人の近距離移動用ファミリーカー」だと思うのです。 「大人4人が長距離で」というニーズには「ムーヴ」が応えられるわけですから、「タント」は毎日のちょっとした移動を楽しくすることに絞って開発されているように思います。 これだけ思い切った車造りができるのも、ダイハツが個性のある豊富なラインナップを誇っているからこそでしょう。 この車が、ダイハツのさらなるイメージアップに貢献することは間違いないだろうと実感しました。 この開放感、あなたもぜひ味わってみてください。
次ページに、2005年6月に追加された新シリーズ「タント カスタム」及び同時に実施された一部改良についての内容を追加しましたので、合わせてご覧下さい。
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