軽の現在・未来

1.軽の歴史

名車スバル360 まず最初に、軽とはどういう車なのかということから解説しておきましょう。(ここでいう「軽」とは、軽自動車三輪及四輪を指すこととします。以下同じ。)
 現在の軽の規格は、全長3.4m、全幅1.48m、全高2m、排気量660cc以下の4輪または3輪の自動車となっています。
 毎年支払う自動車税は、5ナンバーの軽乗用車で年間7,200円(標準税率の場合)と格安で、また、自動車保険や高速料金、駐車料金まで安くなるケースが多く、維持費の安さが注目されてとても人気が高くなっています。
 今ではずいぶん大きく快適になっている軽ですが、最初からこんなに恵まれていたわけではありません。
 まずはその歴史を簡単に振り返ってみましょう。

 軽自動車の規格ができたのは昭和24年7月8日のこと。
 もう50年以上も前から軽の規格は存在したのです。
 しかし、このときの規格は全長2.8m、全幅1m、全高2m、排気量は4サイクルでも150cc以下という今では考えられないようなあまりにも不十分なもので、現実にこの規格で自動車をつくることは困難でした。

 しかし、その翌年には3輪及び4輪と2輪とに分けられ、全長3m、全 幅1.3m、排気量300cc以下にまで拡大されます。
 さらにその翌年には排気量が360cc以下にまで拡大され、ちょうどこのころに出された「国民車育成要綱案」とシンクロするように、各社とも本格的に軽自動車の開発を始めます。
 昭和30年にはスズキアルトの前身であるスズライトという車が発売され、その3年後にあの有名なスバル360(上写真)が登場しました。
 その後は昭和51年に全長3.2m、全幅1.4m、排気量550cc以下へ、平成2年には全長3.3m、排気量660cc以下へと順次拡大されて平成10年に今の規格へと変更になりました。

 実はこの間、小型車も若干拡大されていますが、小型車はもう40年以上規格が変わっていないのに対して、軽自動車は25年で3回も規格が見直されています。
 それだけ軽自動車の社会的重要性が高まってきているということですね。
 
 しかし、最初の規格があまりにも小さく貧弱なものだったため、軽といえば安くて小さくて安全性の低い車というイメージが定着してしまい、初心者の練習用やセカンドカーとしての車という認識が強く残っていました。

 ※スバル360の写真は「中西さんちのおもちゃ箱」様のご好意により、許可をいただいた上で掲載しているものです。他への転載等は一切禁止いたします。

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2.軽の新しい流れ

大ヒット初代ワゴンR そんなセカンドカーとしての軽というイメージを変えてしまう車が平成5年9月に登場します。
 それがスズキのワゴンR(左写真)です。
 小さく窮屈に思える軽の規格ですが、実は全高は最初から2mまで許されており、タテ方向への余裕は充分にあったのです。
 しかしながら、それまでは乗用車ではアルトやミラのようなセダンタイプしか選択の余地がありませんでした。
 そこに目をつけたのがこのワゴンRで、アルトベースのシャシーに、背を高くして居住空間を広くとったミニバンタイプのボディをつけて発売しました。
 これまで常識だった「軽自動車は狭い」という固定観念をみごとに打ち破り、スタイリッシュでキュートなボディも人気となって大ヒットとなりました。
 その後、各社ともこのミニバン(トールワゴン)タイプの軽をメイン車種として発売するようになります。

 このころから、軽自動車に新しい流れが起きます。
 居住性と質感が大幅に向上したことによって、軽をファーストカーに使う人が増えてきたのです。
 ちょうどバブルの時に買った大型車の維持費の高さが家計を圧迫し始める時期とも重なり、軽のコストパフォーマンスの高さが非常に注目され始めることになりました。
 しかし、依然として「軽だけには乗りたくない」といった偏見のようなものも根強く、まだまだ軽に乗っていることを誇れるという雰囲気ではありませんでした。
 実際に、居住性はアップしても、騒音や走りの面では見かけほど大きく改善されてはいませんでしたから、本質的には変わっていないという主張もあながち間違っているとは言えない状態でした。

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3.軽が変わったきっかけ

広々室内の軽 このようにして新しい流れを模索し始めた軽に劇的な変化が訪れます。
 そのきっかけとなるのが、平成10年の規格変更です。

 実に20年ぶりに全幅が拡大され、全長も同時に拡大されました。
 このことは、安全性の向上、居住性の向上、デザインの自由度の向上という、ファーストカーとして認知され始めた軽が本当のファーストカーとして使われるようになるための条件を満たすためには絶好のチャンスとなったのです。
 しかし、今回の規格変更では排気量のアップが見送られたため、大半の人は「大きくなってボディが重くなるから走らないし燃費も悪くなる」というようにあまり期待をしていませんでした。

 ところが、発売されてビックリ。
 新型の軽を見てみんなが最初に発する言葉は「これが軽?」なんですよね。
 丸みを帯びた質の高い外観デザイン、大人4人がゆったり乗れる居住性、小型車と変わらない快適装備の数々、そしてキビキビとした走りと乗り心地の良さ、今までとは別物のような静粛性の高さと、どれをとっても今まで私たちが考えていた「軽」ではなかったのです。
 ボディの重量は若干増したものの、エンジンのトルクアップで充分カバーできていますし、燃費もVVTの採用やミッションの改良などの技術で向上を図っています。
 それでいて価格は従来車より下がった車もあるなど、メーカーが軽の市場に対して本気になっていることがわかります。

 そして、注目すべきは軽の一番のネックであった安全性の向上です。
 小型車よりも1.3mも短い規格でありながら、小型車と同じ基準で安全性を確保しているのです。
 これは、軽自動車がファーストカーとして認知されるために絶対にクリアしなければいけない課題だったので、各社とも非常に力を入れて技術の向上を図りました。
 前後のクラッシャブル構造と高強度キャビン、そしてエアバッグやフォースリミッター付きプリテンショナーELRシートベルト、ABSなど現在有効とされている安全装備は小型車とまったく同等に装備されるようになりました。
 これによって、軽は一人で乗る車から、家族で安心して乗れる車へと成長したわけです。

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4.軽の現在(いま)

ディスチャージヘッドライトも標準 みなさん、次の装備をご存知ですか?
 ディスチャージヘッドライト、サイドエアバッグ、カーテンシールドエアバッグ、ニーエアバッグ、スタビリティコントロール、インパネスポーツシフト、ステアリングスイッチ、ダイナミックサポートヘッドレスト、キーフリーシステム、自発光式メーター、オートライト、ツインプラグエンジン、8スピーカーオーディオ、バックモニター、アクティブトップ(電動オープンメタルトップ)、レーダークルーズコントロール、プリクラッシュセーフティシステム、車線逸脱警報システム、電動スライドドアetc・・・。
 これらの装備は、以前は一部の高級車のみに許された贅沢装備でした。

 なぜ「でした」と過去形で表したかというと、実はこれらの装備、今ではすでに軽に標準またはオプションで設定されている装備なんです。
 ちょっと信じられないようですが、事実なんです。
 軽がファミリーカーとしての役目を担うようになった今、小型・普通車との装備の差はほとんどなくなりつつあります。
 それどころか、4輪車初の装備が軽で実現されることも珍しくないのです。
 軽自動車が「小型車を買えない人が乗る車」ではなくなった証拠であり、メーカーもそういった位置付けはしていないのです。

 バブル時期から加速した車の大型化・贅沢化はバブル崩壊後一般消費者から敬遠されるようになり、「ゆとりと低価格」志向によって室内空間や安全装備の充実に重点が置かれるようになりました。
 これに伴い、「装備の充実度=排気量の大きさ」という構図も崩れてきました。
 車はステータスシンボルから生活必需品へとその意味を変え、消費者は、自分が必要とする装備だけをなるべく安く手に入れたいと思うようになってきたのです。
 例えば、サイドエアバッグが欲しいがために、不必要な装備までついた高額な車を買わなければいけないといった不条理に疑問を持つようになったのです。
 その流れはメーカーの姿勢にも影響し、軽であっても先進の装備を積極的に採用するようになってきました。
 これによって、消費者は自分が欲しい装備を排気量や車両価格に縛られずに選べるようになってきたのです。
 つまり、自分は安全装備にはお金をかけたいがエンジンは660ccで充分、あるいは、静粛性にはこだわるが質感にはこだわらないといった、それぞれの人の価値観にマッチした車選びができるようになってきたわけです。

 このような流れによって、軽は「小型車が買えないから買う車」ではなく、「使い勝手が自分の考えにマッチした車」として、非常に人気を集めるようになっているのです。
 価格も、100万円以下で買えるものから150万円以上するものまでバリエーションに富んでおり、軽は欲しい装備だけを必要最低限の価格で選ぶことができる賢い車という認識が広まりつつあるのです。
 2001年10月にはスマートKという外国車も軽市場に参入しましたが、まさに軽を選ぶということがスマートであるという時代になってきたのです。

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5.軽の未来

軽の外車スマートK これからの車社会はどうなっていくのでしょうか。
 前項で触れたとおり、もう車を持っていることは特別なことではなくなっており、より大きな車を選んでステータスシンボルとするよりも、自分の考えに合った、自分の個性を表現できるような車に乗ることがカッコイイ時代になってきています。
 また、環境問題もより深刻になってきており、ハイブリッド車や電気自動車などもその効果が表れるまでには相当の時間を要します。
 こういった状況の中で、軽自動車は無駄のない賢い車として今後もさらに注目される存在となるでしょう。
 「軽だけはイヤ」と言っていた人にも、最近の軽の完成度の高さが徐々に浸透してきており、まだまだ軽の需要は拡大するものと思われます。

 しかし、軽にも問題がないわけではありません。
 例えば、最近ヴィッツやフィットといった小型車のコンパクトカーが非常に人気を得ていますが、その理由に小さくても品質が良いことと燃費の良さが挙げられます。
 小さくても品質が良いのは最近の軽にも当てはまるのですが、燃費の面ではまだまだ改善の余地があります
 排気量は660ccしかないのに、平均的な燃費はこれらの小型車より劣ってしまいます。
 その理由としては、ボディが拡大されて大きく重くなっているのに排気量が小さいままなので、エンジンに余裕がなくガソリンを多く使ってしまうということが挙げられるでしょう。
 かと言って、排気量を大きくしてしまったのでは小型車との差がなくなり軽の規格自体も問題視されるという事態にもなりかねません。

 それでは、やはり軽は環境面では劣っているのでしょうか。
 いえ、そんなことはありません。
 ダイハツは、従来のガソリンエンジンの徹底した効率化により、ハイブリッドシステムなどを用いずに32.0km/L(10・15モード)の超低燃費を実現した「ミライース」を発売しました。
 この車は、アイドリングストップ機構や減速時エネルギー回生システムのほか、様々な技術を駆使してハイブリッドカー並みの低燃費を実現しています。
 単に燃費が良いというだけでなく、質感や快適性にもこだわっていて、それでいて車両価格は従来の軽自動車と同じ水準です。
 一般に燃費の面では小型車に及ばないと思われていた軽ですが、様々な技術を総合的に投入していけば、小型車と同等以上の環境性能を持ち合わせることも不可能ではないのです。
 2003年1月には、スズキから待望の軽ハイブリッドカー「ツイン」が発売され、2人乗りという制約はつきますが、充実の装備を搭載しながら139万円という現実的な価格を実現し、ハイブリッドカーが今までより身近になったことを実感させてくれました。
 燃費は32.0km/Lを達成していましたが、その後生産中止となってしまいました。
 やはり軽では30km/L超えの実用的な車は無理なのかとあきらめムードもあった中、8年後の2011年にダイハツがその「ツイン」と同じ燃費をハイブリッドシステム無しで実現してしまったのです。
 もはや軽は、環境性能や装備面において、もっとも進化が著しいカテゴリとなっているのです。

 今や、クルマを語る上で軽自動車は欠かせない存在です。
 あれだけ軽自動車の優遇税制に批判的だったトヨタまでも軽自動車市場に参入することになるくらい、軽自動車は自動車メーカーにとっても無視できない存在なのです。
 新車販売台数を見ても、その4割を軽自動車が占めると言われており、環境への負荷も少なくその占有面積の少なさや運転のしやすさで渋滞の緩和にも有効な軽自動車は、今後も無くてはならない存在となり続けるでしょう。
 これからは、「軽に乗ることがカッコイイ」という時代になっていくのではないでしょうか。
 みなさんは、どう思われますか?

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